ガイド・侵入の入口
標的型メール訓練のやり方 開封率より報告率で測る進め方
標的型メール訓練は、偽の攻撃メールを社員に送り、気づいて報告できるかを試す訓練です。多くの会社は開封率やクリック率を見ていますが、IPA は報告までを演習するよう求めています。公的機関の資料をもとに、中小企業でも回せる進め方をまとめました。
要点
- 目的 IPA は、標的型メール訓練では不審なメールを受け取ったときの報告を手順に従って行うところまでを演習するよう求めているため、このサイトは、開かない人を増やすことより、手順どおりに早く報告する人を増やすことを訓練の目標に勧めます。
- 測る数字 開封率やクリック率は題材の難しさで変わるため、報告した人の割合と報告までの時間を主な数字にし、クリック率は題材の難しさと一緒に記録します。
- やってはいけないこと 英国 NCSC は、罰を恐れる人はミスを報告しなくなると指摘しているため、開いた人を責めず、名前もさらさず、開いたあとでも報告した人を評価することをこのサイトは勧めます。
最終確認日 (出典はページの最後)
訓練の目的は「報告できる」こと
IPA が2026年8月に出した「企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策」は、教育や研修、訓練を定期的に行って効果を確かめる必要があるとし、標的型メール訓練では、不審なメールを受け取ったときの報告を手順に従って行うところまでを演習するよう書いています(16ページ)。社員が攻撃メールを報告することも検知の一環だとしています(17ページ)。
狙われるのは開封の一瞬だけではありません。誰かが開いてしまっても、すぐに報告があれば、担当者は全員に知らせ、メールの振り分けの決まりを足し、被害の広がりを止められます。IPA の「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けで「機密情報を狙った標的型攻撃」が5位でした。
一方で、警察庁の令和7年の資料は、ランサムウェアでは標的型攻撃メールなどの添付ファイルによる感染は少なくなっているとしています(15ページ)。入口は VPN 機器が6割以上です(感染経路のガイド)。メールの訓練は、入口の機器の更新や多要素認証の代わりにはなりません。
訓練の流れ
- 1先に決める計画
報告の窓口と書式を決めて周知する。人事と、訓練の範囲と結果の扱いを決めておく。
- 2送る訓練メール
取引先や社内の連絡を装うなど、実際に届く手口に近い題材を選び、題材の難しさを記録する。
- 3測る社員からの報告
報告した人の割合、報告までの時間、開いたあとに報告した人の数を数える。開封率とクリック率は補助に。
- 4返す振り返り
報告にお礼と結果を早く返し、見分けるポイントを全員に知らせる。開いた人の名前はさらさない。
- 1先に決める計画
報告の窓口と書式を決めて周知する。人事と、訓練の範囲と結果の扱いを決めておく。
- 2送る訓練メール
取引先や社内の連絡を装うなど、実際に届く手口に近い題材を選び、題材の難しさを記録する。
- 3測る社員からの報告
報告した人の割合、報告までの時間、開いたあとに報告した人の数を数える。開封率とクリック率は補助に。
- 4返す振り返り
報告にお礼と結果を早く返し、見分けるポイントを全員に知らせる。開いた人の名前はさらさない。
進め方
- 報告の窓口と書式を決めるIPA は、報告先と書式を決め、受信日時、送信元、リンクや添付ファイルの有無、リンクのクリックや添付ファイルの開封の有無を含めるよう挙げています(19ページ)。添付ファイルを開いてしまったときなどに社員がすぐやることも決めます。IPA は、添付ファイルを開いた場合はパソコンをネットワークから切断するよう挙げています。訓練の前に、この手順を全員に知らせます。
- 人事や労務の担当と、結果の扱いを決める英国 NCSC は、訓練の前に人事部門と確かめるよう勧めています。誰の結果を誰が見るのか、個人の結果を評価に使わないことを先に決めておきます。
- 題材を選ぶ実際に届く手口に近い題材を選びます。標的型攻撃メールは取引先や社内の連絡を装い、フィッシングはログイン画面に誘い、ビジネスメール詐欺は送金を急がせます。NIST の研究は、メールの前提が受け取る人の仕事の文脈に合うほど見抜くのが難しくなるとしています。題材ごとの難しさを記録しておきます。
- 送って、報告を受ける送った時刻、報告の時刻、開封やクリックを記録します。開いた人が報告できる道を残しておきます。
- 振り返って返す報告した人には早くお礼と結果を返します。総務省の調査では、府省庁の例として、開いた人に開いたときの心理をたずねるアンケートや、実際に届いた攻撃メールで見分けるポイントを知らせる取り組みが紹介されています(4ページ)。
測る数字
| 数字 | 何がわかるか | 注意 |
|---|---|---|
| 報告した人の割合 | 手順どおりに報告できる人がどれだけいるか | 主に見る数字。報告の窓口が分かりにくいと下がる |
| 報告までの時間 | 最初の報告が届くまでの速さ | 最初の1件が早いほど、全員に知らせるのが早くなる |
| 開いたあとに報告した人の数 | 失敗しても隠さずに言える職場か | 責める文化だと0に近づく |
| 開封率、クリック率 | 題材にだまされた人の割合 | 題材の難しさで大きく変わるので、難しさと一緒に記録する |
総務省行政評価局が2021年5月に公表した調査では、偽の標的型攻撃メールを送る模擬訓練は、調べた24府省庁のうち21で令和元年度以降に行われ、各府省庁は添付ファイルの開封率や URL のクリック率を注視していました。ただ、セキュリティの担当部局に必要な報告をしたかまでを訓練に位置づけていたのは約4割でした。英国 NCSC も、クリックした人数を測るだけでなく、報告した人数に目を向けるよう勧めています。表の数字の組み合わせは、これらの資料をもとにこのサイトが整理したものです。
やってはいけないこと
| やってはいけないこと | 理由 |
|---|---|
| 開いた人を罰する、評価を下げる | 英国 NCSC は、すべての攻撃メールを見抜ける人はいないので、自分たちが送ったメールを開いた人を罰するのはわなにかけることに近づくとし、法的な危険もあると指摘している |
| 開いた人の名前を社内にさらす | NCSC は、仕事を失うことを恐れる社員はミスを報告しなくなるとしている。米国 CISA も、責めない文化が素早い対応を促すとしている。名前をさらすことはその恐れを生むと、このサイトは考える |
| 開封率だけで成果を語る | クリック率は題材の難しさで変わる(NIST)。報告が少ない状態を「問題がない」と受け取ると、問題を黙っておく方向に人を動かす(NCSC) |
| 訓練だけで守れると考える | NCSC は、どんな訓練でもすべての攻撃メールを見抜けるようにはならないとしている。メールの認証、多要素認証、送金の承認ルールなどと組み合わせる |
IPA は、送金の承認ルールを整備してビジネスメール詐欺に備えること、多要素認証の設定ルールを定めてパスワードを盗まれる被害に備えることも挙げています(16ページ)。メールで盗まれたパスワードは認証情報の悪用につながり、多要素認証も回避の手口があります。KADOKAWA の事例は、フィッシングなどで社員のアカウント情報が盗まれたことが根本の原因と推測されています(経路と方法は不明)。メールに付いたファイルから入るマルウェアへの備えも続けます。
よくある質問
- 標的型メール訓練は、年に何回やればよいですか。
- 回数を決めた公的な基準は見当たりません。IPA は、教育や研修、訓練を定期的に行い、その効果を確かめるよう求めています。毎回の題材の難しさをそろえるか記録しておくと、回をまたいで比べられます。
- 開封率が下がれば、訓練は成功ですか。
- それだけでは判断できません。NIST の研究は、クリック率は題材の難しさによって変わると考えるべきだとしています。総務省の調査では、各府省庁が開封率やクリック率を注視する一方、報告までを訓練に含めていたのは約4割でした。報告の数と速さも一緒に見ます。
- 訓練メールを開いた社員に、注意や処分をしてよいですか。
- 処分はおすすめしません。英国 NCSC は、すべての攻撃メールを見抜ける人はいないので、自分たちが送ったメールを開いた人を罰することはわなにかけることに近づくとし、訓練の前に人事部門と確かめるよう勧めています。罰を恐れる人はミスを報告しなくなるとも指摘しています。
- 訓練は外部のサービスに頼むべきですか。
- どちらでもできます。外部のサービスを使っても、報告の窓口と手順、結果の扱いは自社で決める必要があります。少人数なら、報告の窓口を決め、題材を選んで、報告の数と時間を記録するだけでも始められます。
関係するページ
このページが根拠に使っている手口、グループ、事例のページです。
出典
- 企業組織を狙う攻撃メールの手口とその対策(16〜17、19ページ) IPA(独立行政法人情報処理推進機構)・2026-08-03
- 情報セキュリティ10大脅威 2026 IPA(独立行政法人情報処理推進機構)・2026-01-29
- 国の行政機関における情報セキュリティ対策に関する実態調査 職員の情報セキュリティ教育の取組状況(1、4ページ) 総務省行政評価局・2021-05-13
- 令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について(15ページ) 警察庁サイバー警察局・2026-03
- Phishing attacks: defending your organisation National Cyber Security Centre(英国)・2024-02-13
- Protect Government Services with Phishing Training CISA(米国 Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)・ページに日付の表示なし
- Categorizing Human Phishing Detection Difficulty: A Phish Scale NIST(米国国立標準技術研究所)・2020-09-14
最終確認日 (2026年10月24日)
監修 平原尚樹(株式会社BlueAI 代表取締役CEO、ソフトウェアエンジニア、Google Cloud Architect)